こんにちは、ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。
ピクサーのストーリーテリングが学べるPixar in a Box。
Khan Academy(カーンアカデミー)が世界の人に世界レベルの教育を無償で提供する、オンライン講座の一つです。
今回は、Pixar in a Boxのストーリーテリング講座【3-5】第2幕/Act 2の解説です。(TOEIC950点かつピクサーファンの翻訳家が協力)
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座は1〜6章あり、3章は「ストーリーの構成/Story structure」。
【3-5】第2幕/Act 2は、ストーリーの構成で最も多い「3幕構成」の「第2幕」についてお話しします。第2幕は主人公を成長させるための大切なパートになりますので、ぜひ後半のレッスンもチャレンジしてください。
それでは、どうぞ!
※「ピクサーのストーリーテリング41ステップ」で講座の一覧が見れます。
※日本語の翻訳全文はページ下部に載せています。
第2幕とは
第2幕とは「3幕構成」の2番目にあたり、「転機」〜「最悪の状況」までを指します。
第2幕では、主人公が「実現したいこと(ウォンツ)」のために、乗り越えければならない一連の困難が続きます。(【2-3】ウォンツとニーズ/Wants vs. Needsにて解説)
一連の困難は「最悪な状況」を招き、主人公は決して後戻りできない選択を強いられるのです。
第2幕では、主人公の身に以下の4つが起こります。
- 一連の困難による試練
- 障害を乗り越えるための行動
- 困難を克服する成長の機会
- 最悪な状況
第2幕の目的は、主人公が「第1幕」で避けていた障害に立ち向かわせることです。そのため、主人公が後戻りのできない分かれ道まで、一連した課題を与えることが必要です。
最悪の状況とは
最悪の状況とは、主人公がすべての望みを失った状態です。
主人公は「実現したいこと(ウォンツ)」のために様々な試練を乗り越えます。しかし最悪の状況とは、何をやっても失敗したり、目的が達成したのにも関わらず心から満足できなかったりする状況を指します。
最悪の状況は、主人公が試練を越えたことで“本当に成長したのか?”を観客に証明する役割があります。
8ステップの第2幕
8ステップとは、物語の大まかな流れを組み立てるのに役立つ、ストーリー構成の型です。(※【3-2】ストーリーの8ステップ/Story spineで解説)
以下が、8ステップです。
- 昔々、あるところに〜〜
- 毎日、〜〜
- しかしある日、〜〜
- このせいで、〜〜
- そのため、〜〜
- そのせいで、〜〜
- ついに、〜〜
- それ以来、〜〜
第2幕は、8ステップの中間の3ステップを指します。
それぞれのステップについて説明します。
ステップ4「このせいで、〜〜」
ステップ4「このせいで、~~」は、主人公が障害に立ち向かう姿です。第1幕の転機によって、主人公の悩みや恐れに立ち向かわなければならない姿を伝えます。
ステップ5「そのため、〜〜」
ステップ5「そのため、~~」は、主人公の対立です。主人公は障害を乗り越えるために立ち向かいますが、それに伴って危険な目に遭ったり、仲間たちとの対立が生まれます。
ステップ6「そのせいで、〜〜」
ステップ6「そのせいで、~~」は、主人公の最悪な状況です。主人公は一連の困難を乗り越えるも、最後に何をやってもうまくいかない最悪な状況に置かれます。主人公に、困難を克服する成長の機会を与えるのです。
ピクサー映画の第2幕
ピクサー映画も3幕構成です。実際に、ピクサー映画の第2幕がどのようになっているか見てみましょう。
インサイド・ヘッドの第2幕
『インサイド・ヘッド』の第2幕は、「思い出の保管所」〜「記憶のゴミ捨て場へ落下」までです。
第1幕では、ヨロコビが司令部でいつもみんなに指示を出している様子が描かれ、カナシミがお荷物の存在となっています。しかし、あるきっかけでヨロコビとカナシミは思い出の保管所に落ちてしまうのです。
ステップ4「このせいで、〜〜」は、ヨロコビとカナシミが司令部からいなくなってしまったことで、ライリーから「喜びの感情」が消えていきます。
ステップ5「そのため、〜〜」は、2人は思い出の保管所で道に迷っているところ、ビンボンと出会います。司令部への帰り道を案内してもらうも、列車が止まったり、ビンボが泣き出したり、記憶の島が壊れたりして、中々帰れません。
途中、ビンボンが泣き出した時、ヨロコビはいつも通りに冗談で励まそうとします。しかし、一向に元気にならないビンボンに対し、カナシミが一緒に悲しんで慰めることで、ビンボンは元気になります。
ステップ6「そのせいで、〜〜」は、ヨロコビがいなくなり司令部が不安定になったでライリーの感情が操作できなくなります。その結果、記憶の島がほとんど壊れ、ヨロコビは一度落ちたら二度と戻れない「記憶のゴミ捨て場」に落ちてしまうのです。
『インサイド・ヘッド』の第2幕は、カナシミと一緒に一連の困難を乗り越えることで、ヨロコビがカナシミの価値に気付き始めるのです。
カールじいさんの空飛ぶ家の第2幕
『カールじいさんの空飛ぶ家』の第2幕は、「空の旅の出発」〜「パラダイスフォールへの到着」までです。
第1幕では、主人公のカールが亡くなった妻「エリー」との思い出を大切にする姿が描かれます。しかし、ふとしたきっかけで家を立ち退かなければならなくなったカールは、エリーとの約束を果たすため、伝説の滝「パラダイスフォール」へと向かう「空の旅」へ出発するのです。
ステップ4「このせいで、〜〜」は、カールの空飛ぶ家は積乱雲に突っ込んでしまったことで空が飛べなくなり、ジャングルを歩くはめになります。
ステップ5「そのため、〜〜」は、空の旅に付いてきたラッセルと共に「パラダイスフォール」へ向かうも、ケビンやダグも付いてきます。そして、ケビンを追っていた犬に捕まったことで、カールの身に危険が迫り、仲間たちとの対立が生まれます。
ステップ6「そのせいで、〜〜」は、ケビンが連れ去られてしまうも、カールはどうしてもエリーとの約束を果たしたいため、ケビンを見捨てます。
目的地のパラダイスフォールへ到着し、家で1人、エリーとの写真を振り返りながら思い出に浸るも、感じるのは「虚しさ」です。カールは人生の目標が達成するも、今の自分にとって「人生で必要なもの(ニーズ)」がラッセルとの関係だと気づくのです。
『カールじいさんの空飛ぶ家』の第2幕は、カールは今ある関係の大切さに気づくことです。
第2幕のアドバイス
ピクサーのスタッフが第2幕についてアドバイスをしているので、ご紹介します。
1. キャラクターを苦しい目に遭わせないと、「対立」」のない物語になってしまう。「対立」のない物語は薄っぺらく、だらけて、勢いもないわ。
– メアリー・コールマン:Head of Creative Development –
2. 長すぎる「第2幕」をよく目にするんだ。”それから、それから”、そしてまた、”それから、それから、またそれから”という「第2幕」は見たくないよ。
– ロバート・グラムジョーンズ:Editor –
3. 「最悪の状況」とは、メインキャラクターがすべてを失ったように思える時さ。
– ケビン・オブライエン:Story Artist –
ピクサーのスタッフにとって第2幕とは、ただの物語のつなぎではなく、キャラクターを成長させるための試練として考えられています。
【レッスン】第2幕を考えてみよう
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座のレッスンです。
今回のレッスンは第2幕について考えます。「3つの物語」と「8ステップ」を使いますので、下記ページをご覧ください。
- 「3つの物語」:【1-3】あなたの好きな物語/Your favorite stories
- 「8ステップ」:【3-2】ストーリーの8ステップ/Story spine
今回は2つのステップです。それでは、いきましょう!
1. 好きな物語の第2幕
あなたの好きな3つの物語の第2幕について、以下の4つを書き出しましょう。
- 第2幕で、主人公はどのような「実現したいこと(ウォンツ)」や目標がありますか?
- 最後の決断や、大きな気づきは何ですか?(もしあれば)
- 最悪の状況は何ですか?(もしあれば)
- 主人公は第2幕の終わりまでに何を学びましたか?
2. あなたの物語の第2幕
あなたの物語の第2幕ついて、以下の4つを考えましょう。
- 第2幕で、主人公はどのような「実現したいこと(ウォンツ)」や目標がありますか?
- 主人公はなぜ最悪の状況に置かれますか?(もしあれば)
- 最後の決断や、大きな気づきを書いてください。(主人公は、どこで「人生で必要なもの(ニーズ)」に気づきますか?)
- あなたの物語の8ステップの、ステップ4~ステップ6までを、それぞれ100文字以内で具体的に表現してみましょう。
今回のレッスンは以上です。
第2幕が書き出せた人は、コメント欄やTwitterに投稿してみてくださいね。
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#ピクサーレッスン
#第2幕
【3-5】第2幕/Act 2のまとめ
第2幕で大切なのは、主人公の進化です。主人公に一連した困難を乗り越えさせることで、成長する機会を与えます。
そして、主人公を最悪の状況に起き、後戻りのできない選択をさせることで「最後の決断」へと導くのです。
第2幕で主人公の成長を伝え、物語のフィナーレとなる第3幕へ導きましょう。
【3-5】第2幕/Act 2は以上です。
【3-6】第3幕/Act 3へお進みください。
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【3-5】第2幕/Act 2の動画
【3-5】第2幕/Act 2の日本語翻訳
【登場人物】
ナレーター(Derek Thompson:Story Artist)
メアリー(Mary Coleman:Head of Creative Development)
ジェームス(James Robertson:Story Artist)
ロバート(Robert Grahamjones:Editor)
ケビン(Kevin O’Brin:Story Artist)
ナレーター:「第1幕」では、観客に伝えたいすべての情報を設定し、キャラクターが克服する「課題」を決めました。いよいよキャラクターは目的の達成へ動き出します。
それでは、「第2幕」のストーリーパターンを詳しく見てみましょう。
「第2幕」では主人公が一連の厄介な問題に直面します。困難が次々と起こるため、主人公は難しい決断を下すことになり、この一連の出来事を「試練」と呼びます。困難を増す障害を乗り越えるための、メインのキャラクターがとる選択や行動が、「第2幕」の中心です。
「第2幕」の「試練」をただの苦難の連続にしないためには、どうすればいいでしょうか?ピクサーのストーリーアーティストに、「第2幕」の内容について聞いてみましょう。
– 「第2幕」についてどのように考えていますか? –
メアリー:キャラクターを痛めつけるのが「第2幕」よ。キャラクターを苦しい目に遭わせないと、「対立」」のない物語になってしまう。「対立」のない物語は薄っぺらく、だらけて、勢いもないわ。だからキャラクターに次々と難題を投げかけ、学ばせて、困難を克服する成長の機会にするの。だから成長が一番見られるのが「第2幕」なのよ。
ジェームズ:そう、まさにキャラクターが変身するところさ。
ロバート:編集者として、長すぎる「第2幕」をよく目にするんだ。”それから、それから”の後にまた、”それから、それから、またそれから”という「第2幕」は見たくないよ。
ケビン:つまり、ここで必要なのは、キャラクターが後戻りできない、苦しい決断の分かれ道に辿り着くまでの、一連の課題を作ることなんだ。
メアリー:私が好きな「第2幕」は『インサイド・ヘッド』で、仕切り役のヨロコビが、司令部でいつものようにみんなに指示を出しているの。彼女にとってカナシミは問題以外の何者でもない「お荷物」で、文字通りカナシミを引きずりもする。
ある時二人はビンボンに出会い、助けを求めるけれど、ビンボンは落ち込んでキャンディーの涙を流し、役に立たないの。ヨロコビは冗談を言って彼を励まそうとするの。「冗談」だけが、ヨロコビの解決法よ。一方、カナシミはビンボンの隣に座り、”大変だったわね”と声をかけて慰める。するとビンボンは泣くのを止めて元気を出し、3人は出発できるの。それはヨロコビにとっての大きな気づきで、初めてカナシミの価値を見出すのよ。
ナレーター:「第2幕」では「最悪の状況」が起こり、すべての望みを失います。何もかもが上手くいかず、キャラクターが目的のために何をやっても失敗するのです。または、他に本当に必要なものがあるために、目的をすべて達成したのに不満や惨めさを感じます。
– 「最悪の状況」についてどのように考えていますか? –
ケビン:「最悪の状況」とは、メインのキャラクターがすべてを失ったように思える時さ。
ジェームズ:「第2幕」の終わりには、キャラクターに何かとても悪いことが起きる。キャラクターが「1幕」の終わりで避けていたことに、無理やり立ち向かわせるために「第2幕」があるんだ。その結果キャラクターが「本当に変化したのか」を、「3幕」で観客とキャラクター自身にも証明してあげるんだ。
メアリー:ピート・ドクターが脚本を書いた『カールじいさんの空飛ぶ家』が好きで、「第2幕」の最後に起こる「最悪の状況」の描かれ方が理由よ。映画の中でずっとカールが持ち続ける目的は、大きくて無茶で、”伝説の滝、パラダイスフォールの上まで家を動かさなくては。昔、妻とそこに住む約束をしたから”と言うの。
でもついにその目的を果たし、妻のエリ―と約束した場所に移した家で、カールは一人で椅子に座っていると虚しさを感じるの。自分の目的は確かに果たしたけれど、「第2幕」でカールは自分に必要なのはラッセルとの関係だと気づくのよ。
ナレーター:まとめてみましょう。
多くの場合「第2幕」は「転機」の直後に始まり、次に、キャラクターが目的達成のために乗り越えるべき一連の困難が続きます。ストーリーの半分あたりの「第2幕」の中間までに、キャラクターに「決して後戻りできない選択」をさせられます。
これを「最後の決断」とも呼びます。
「第2幕」では「最悪の状況」が起きることもある。通常ここで「第2幕」が終わります。
次のレッスンでは、あなたの好きな映画の「第2幕」とその出来事を探してみましょう。そして、自分が書きたいストーリーの「第2幕」も考えてみてください。