こんにちは、ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。
ピクサーのストーリーテリングが学べるPixar in a Box。
Khan Academy(カーンアカデミー)が世界の人に世界レベルの教育を無償で提供する、オンライン講座の一つです。
今回は、Pixar in a Boxのストーリーテリング講座【3-6】第3幕/Act 3の解説です。(TOEIC950点かつピクサーファンの翻訳家が協力)
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座は1〜6章あり、3章は「ストーリーの構成/Story structure」。
【3-6】第3幕/Act 3は、ストーリー構成で定番の「3幕構成」の「第3幕」についてお話しします。第3幕は物語のクライマックスであり、物語のテーマを描く大切なパートになりますので、ぜひ後半のレッスンもチャレンジしてください。
それでは、どうぞ!
※「ピクサーのストーリーテリング41ステップ」で講座の一覧が見れます。
※日本語の翻訳全文はページ下部に載せています。
第3幕とは
第3幕とは「3幕構成」の最後の幕であり、「最大の試練」〜「平和な日常」までを指します。
第1幕と第2幕の主人公は「実現したいこと(ウォンツ)」のために行動をしていました。(【2-3】ウォンツとニーズ/Wants vs. Needsにて解説)
しかし、第2幕の「最悪な状況」がきっかけで、主人公は「人生で必要なこと(ニーズ)」に気づきます。
そして「最大の試練」を迎えた時、主人公は「人生で必要なこと」のために「実現したいこと」を犠牲にできるかが問われます。
第3幕は主人公の「最後の決断」によって1番大切なものを失う可能性があるため、最も緊張感が高まるシーンです。
第3幕では以下の3つが起こります。
- 最大の試練
- 最後の決断
- 解決による平和な日常
第3幕の目的は、主人公の心の成長です。今までの間違いに気づいた主人公に「実現したいこと」を犠牲にする試練を与えることが大切です。
この心の成長こそが物語のテーマとなります。
第3幕の注意点
第3幕で注意する点は、観客の期待を裏切らないことです。
主人公の世界の問題を解決したり、主人公自身の課題を克服させたり、色々な意味で満足感を与えることが必要です。
しかし、障害を乗り越えて悪を対峙し、納得のいく結末を迎えても「満足感」に繋がるとは限りません。
満足感を与えるには、何よりも主人公の心の成長が大切なのです。
8ステップの第3幕
8ステップとは、物語の大まかな流れを組み立てるのに役立つ、ストーリー構成の型です。(※【3-2】ストーリーの8ステップ/Story spineで解説)
以下が、8ステップです。
- 昔々、あるところに〜〜
- 毎日、〜〜
- しかしある日、〜〜
- このせいで、〜〜
- そのため、〜〜
- そのせいで、〜〜
- ついに、〜〜
- それ以来、〜〜
第3幕は、8ステップの最後の2ステップを指します。
それぞれのステップについて説明します。
ステップ7「ついに、〜〜」
ステップ7「ついに、~~」は、主人公の最後の決断です。
第2幕で「人生で大切なこと」を学んだ主人公は、今までとは違った選択をすることで「最大の試練」を乗り越えます。
ステップ8「それ以来、〜〜」
ステップ8「それ以来、~~」は、解決による平和な日常です。
主人公は一連の障害を乗り越えたことで、平和な日常を取り戻します。
大切なのは、主人公の心の成長です。
ピクサー映画の第3幕
ピクサー映画も3幕構成です。実際に、ピクサー映画の第3幕がどのようになっているか見てみましょう。
ファインディング・ニモの第3幕
『ファインディング・ニモ』の第3幕は、「ニモとの再会」〜「見送る学校」までです。
ステップ7「ついに、〜〜」、マーリンはニモと再会できました。ニモとの再会は物語の中でマーリンの「実現したいこと」です。しかし、マーリンの相棒「ドリー」が魚の網にかかってしまいます。
マーリンはドリーを救わなければなりませんが、自分にはどうすることもできません。そこで体の小さいニモが網の中へ助けに行こうとします。マーリンはニモを安全な家へ連れて帰りたいため一度は止めようとしますが、ニモの力を信じて網の中へ助けに行かせます。
そしてニモはドリーを助け、マーリンとドリーとサンゴ礁へ帰ります。
ステップ8「それ以来、〜〜」、マーリンとニモに平和な日常が訪れました。ニモを学校まで仲間と泳がせ、友達のサメとも仲良くします。マーリンは「息子の成長を願うならば、息子離れをしなければならないこと」を教訓として得たのです。
カールじいさんの空飛ぶ家の第3幕
『カールじいさんの空飛ぶ家』の第3幕は、「ケビンの救出」〜「新しい家族」までです。
ステップ7「ついに、〜〜」、カールはラッセル達を助けるため飛行船でチャールズと戦います。そして、エリーとの大切な思い出が詰まった「家」を手放す選択をすることで、ラッセル、ダグ、ケビンの救出に成功します。
ステップ8「それ以来、〜〜」、カールはラッセルの授与式で、本来は親の役目である活躍のバッジをつけてあげます。これはラッセルを友達としてではなく、家族として”そばにいる”という心の表現をします。カールは「過去の大切な人にしがみつくのではなく、今の大切な人を愛すること」を教訓として得たのです。
トイ・ストーリー3の第3幕
『トイ・ストーリー3』の第3幕は、「アンディの最後の片付け」〜「ボニーのおもちゃ」までです。
ステップ7「ついに、〜〜」、ウッディはアンディと一緒に大学へ行くか、アンディの期待を裏切って仲間たちと一緒に屋根裏にいるかを選択させられます。そこでウッディは、すべてのおもちゃをボニーに寄付させることを思いつきます。そして自ら寄付箱に入り、おもちゃとしての自分の運命をアンディに委ねます。
アンディはボニーがおもちゃを大切にしてくれる子だと知り、ウッディを含めたすべてのおもちゃをボニーに譲ります。
ステップ8「それ以来、〜〜」、ウッディはボニーのおもちゃとして、仲間たちと幸せに過ごしました。ウッディは「おもちゃの役目を果たすために、おもちゃを必要とする人のそばにいること」を教訓として得たのです。
第3幕のアドバイス
ピクサーのスタッフが第3幕についてアドバイスをしているので、ご紹介します。
1. 第3幕の主人公は第2幕で気づいた「1番大切なこと」ために戦い、それが映画のテーマよ。
– メアリー・コールマン:Head of Creative Development –
2. 第3幕で満足感を与えるために映画は解決すべきだよ。観客が予想しなかった「解決」になることもあるけどね。
– ロバート・グラムジョーンズ:Editor –
3. 第3幕を上手に構成できれば、矛盾のないストーリーが作れるわ。でもそれが「満足のいく解決」とは限らない。「満足のいく解決」には感情が必要で、主人公の心の成長が大切よ。
– メアリー・コールマン:Head of Creative Development –
ピクサーのスタッフにとって第3幕とは、すべてをつなげて矛盾のないストーリーを描き、観客に深い満足感を与える大切なパートです。
【レッスン】第3幕を考えてみよう
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座のレッスンです。
今回のレッスンは第3幕について考えます。「3つの物語」と「8ステップ」を使いますので、下記ページをご覧ください。
- 「3つの物語」:【1-3】あなたの好きな物語/Your favorite stories
- 「8ステップ」:【3-2】ストーリーの8ステップ/Story spine
今回は2つのステップです。それでは、いきましょう!
1. 好きな物語の第3幕
あなたの好きな3つの物語の第3幕について、以下の4つを書き出しましょう。
- 主人公の最大の試練は何ですか?
- 最大の試練はどのように解決しましたか?
- 主人公は第2幕で学んだことをどのように示していますか?
- 物語のテーマは何ですか?
- 物語を終えた主人公は感情的に満足していますか?またそれはなぜですか?
2. あなたの物語の第3幕
あなたの物語の第2幕ついて、以下の4つを考えましょう。
- 主人公の最大の試練は何ですか?
- 最大の試練はどのように解決しますか?
- 主人公は第2幕で学んだことをどのように示しますか?
- 物語のテーマは何ですか?
- 観客はあなたのエンディングを感情的に満足させていますか?またそれはなぜですか?
今回のレッスンは以上です。
第3幕が書き出せた人は、コメント欄やTwitterに投稿してみてくださいね。
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#ピクサーレッスン
#第3幕
【3-6】第3幕/Act 3のまとめ
第3幕で大切なのは、主人公の心の成長です。
観客の期待を裏切らず、時には予想外の結末を迎えることで、感情的な満足感を与えます。
第3幕は物語のテーマになりますので、あなたが伝えたい教訓を伝え、観客に「学び」を与えましょう。
【3-6】第3幕/Act 3は以上です。
【3-7】ストーリー構成のアドバイスへお進みください。
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【3-6】第3幕/Act 3の動画
【3-6】第3幕/Act 3の日本語翻訳
【登場人物】
ナレーター(Derek Thompson:Story Artist)
ジェームス(James Robertson:Story Artist)
ケビン(Kevin O’Brin:Story Artist)
メアリー(Mary Coleman:Head of Creative Development)
ロバート(Robert Grahamjones:Editor)
ナレーター:「第3幕」を迎えると、物語は最後の危機に向かって猛スピードで進みます。「きたるべきクライマックス」です。
これは主人公の緊張感が最も高まる場面で、一番大切にしていたものを失う危険があります。観客が手に汗を握る場面です。
「第1幕」と「第2幕」で、「実現したいこと」のために選択をしていたキャラクターが、いよいよ最大の試練を迎えます。キャラクターは「人生で必要なこと」を受け入れ、「第1幕」では選択できなかった行動ができるのでしょうか?
例えば『ファインディング・ニモ』の終盤では、マーリンはニモを発見します。これは物語の目的であり、マーリンの「実現したいこと」でもありました。しかしマーリンの相棒であり友人でもあるドリーが、魚の網にかかってしまいます。
これはまさに「危機」です。マーリンはニモを安全な家に連れて帰りたいと願う一方、ドリーを救わねばなりません。救えるのはニモだけです。マーリンはニモに役割を任せ、信じるしかありません。
クライマックスの後は、キャラクターたちとその世界に平和な日常に戻っていきます。そして、もっと理想的でより良い自分になります。これが「解決」です。
『ファインディング・ニモ』では、ニモがドリーを網から助け、サンゴ礁に戻り、ニモを信じ自信がついた新しいマーリンは、ニモを学校まで仲間と泳がせ、友だちになったサメたちとも仲良くさせます。
ピクサーの仲間たちに、「第3幕」の内容について聞いてみましょう。
– 「第3幕」についてどのように考えていますか? –
ジェームズ:「第3幕」では、キャラクターが「人生で必要なこと」のために、「実現したいこと」を犠牲にするんだ。今までの間違いに気づき、変化した自分を行動で示す時さ。
ケビン:これまでにキャラクターは、たくさんの試練を経験したはずだ。「第3幕」では、そもそもこの物語を書こうと決めた理由で物語のテーマでもある、キャラクターが「学んだ何か」を描けるはずだよ。
メアリー:「第3幕」でテーマと教訓が登場するのは、「第2幕」でキャラクターが「一番大切なこと」を見つけたからよ。「第3幕」ではキャラクターがその「大切なこと」のために戦い、通常それが映画のテーマよ。
『ミスター・インクレディブル』の「第3幕」では、家族が団結して戦い、生き延びるの。主人公のボブは家族のために戦って、スーパーファミリーになるのよ。
ロバート:「3幕構成」の映画では、「第1幕」と「第2幕」で物語を上手く進められたと感じても、「第3幕」でしくじることもある。「第1幕」と「第2幕」を信じて観続けた観客を、裏切るような「第3幕」であってはならないんだ。
ケビン:僕の考えでは、色んな意味で満足感があることさ。観客が、”やった!キャラクターの世界の大切な問題を解決した”とか、”やった!キャラクター自身の課題を自分で克服した”とか、”やった!悪い奴らをやっつけた”とかね。
そして、気持ちいい世界にして、映画館を出る時、”ああ、いい映画だった。何かを学んだ”と感じさせることさ。
メアリー:「第3幕」を上手に構成できれば、矛盾のない結末のストーリーを作ることができるわ。障害を乗り越え、悪者も退治し、納得いく結末よ。でも、それが「満足のいく解決」とは限らないわ。「満足のいく解決」には感情が必要で、キャラクターが心の成長を成し遂げることが大切よ。
『カールじいさんの空飛ぶ家』の「解決」では、カールはラッセルと友だちでい続けるだけでなく、ボーイスカウトのバッジの授与式に現れ、本当は親の役目である、活躍の印のバッジをつけてあげるの。これは、”ずっと側にいるよ”というカールの心の表現で、”この子は自分の家族になった”と感じるの。
ロバート:「第3幕」で映画は解決すべきだよ。観客が予想しなかった驚きの「解決」になることもあるけど、満足感があるんだ。
メアリー:『トイ・ストーリー3』の「解決」がとても好きで、驚きがあり予想外の結末だからよ。映画の中でウッディはずっと「どちらかの選択」をさせられるの。アンディのために一緒に大学へ行き、親友のおもちゃたちと別れるのか。または、アンディの気持ちを裏切って、仲間のおもちゃといなくなるのか。
ウッディは最後の最後に「解決」を見つけ、アンディにすべてのおもちゃをボニーに寄付させることを思いつくの。驚いたことに、ウッディは自分でその箱に入るという、3つ目の方法を見つけるの。友だちと一緒にいられると同時に、アンディに自分をどうするかの選択をまかせるのよ。驚きがありつつ自然で、心に響く「解決」よ。
ナレーター:まとめましょう。「第3幕」ではすべてをつなげます。キャラクターは困難を乗り越え、「心の成長」を成し遂げる。テーマがはっきりと表現され、物語のつじつまが合い、感情的で、時には予想外の結末を迎えます。
次のレッスンでは、あなたの好きな映画の「第3幕」で重要な意味を持つ事柄を探し,
自分が書きたいストーリーの「第3幕」も考えてみましょう。