こんにちは、ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。
ピクサーのストーリーテリングが学べるPixar in a Box。
Khan Academy(カーンアカデミー)が世界の人に世界レベルの教育を無償で提供する、オンライン講座の一つです。
今回は、Pixar in a Boxのストーリーテリング講座【2-6】ステークス/Stakesの解説です。(TOEIC950点かつピクサーファンの翻訳家が協力)
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座は1〜6章あり、2章は「キャラクター/Character」。
【2-6】ステークス/Stakesは、キャラクターのステークスについてお話しします。あなたのキャラクターにステークスを与えることで、観客の緊張感はどんどん高まりますので、ぜひ後半のレッスンもチャレンジしてください。
それでは、どうぞ!
※「ピクサーのストーリーテリング41ステップ」で講座の一覧が見れます。
※日本語の翻訳全文はページ下部に載せています。
ステークスとは?
最初に質問させてください。
“なぜ、あなたはキャラクターの行く末が気になるのですか?”
ステークスとは、キャラクターが選んだ「行動の結果がどうなるのか?」という理由です。キャラクターが障害を対処する際には「リスク」、「影響」、「報酬」などが伴います。これらをまとめたものが「ステークス」です。
例えば『ファインディング・ニモ』。
“なぜ、あなたはニモの心配をしますか?”
もし、ニモがお父さんと再会できなかったら、ニモはずっと水槽で生活しなければなりません。お父さんにも会えません。さらに、もしダーラの手に渡ったら、命の保証はできません。
このように、私たちがニモを心配するのには理由があり、これを「ステークス」と言います。
ステークスの高低
ステークスは高さで表現します。
ステークスは低ければ低いほど、キャラクターに危機感は生まれません。そのため、低いステークスは観客の注意を惹くことが難しいです。
反対に、ステークスが高ければ高いほど、キャラクターに緊張感が生まれます。そのため、高いステークスは観客の緊張も高まります。
例えば、『ジュラシック・パーク』のステークスはとても高いと言えます。なぜなら、もしキャラクターがミスを犯したら「恐竜に食べられる」からです。
このように、ステークスは高めれば高めるほど、観客を楽しませることができます。
ステークスは3つに分類されるので、それぞれのご紹介をします。
1. 外的ステーク
外的ステークスとは、ストーリーの世界で起こっていることです。
キャラクターは自分が選んだ行動によって迷子になったり、ストーリーで起こる出来事によって強盗に襲われたりします。この「身体的な影響」を外的ステークスと言います。
作品を例にしましょう。
メリダとおそろしの森
2012年公開、第85回アカデミー賞「長編アニメーション賞」を受賞した『メリダとおそろしの森』。
主人公の『メリダ』は、母に魔女が作ったケーキをあげてしまった結果、母を「熊」にしてしまいます。
魔女の魔法を解かなければ、母は人間に戻れません。また、父は熊を憎んでいるため、もし父に見つかったら母は殺されるかもしれません。
メリダのように、自分の行動によって「身体に影響を与える出来事」を外的ステークスと言います。
2. 内的ステークス
内的ステークスとは、キャラクターの心に働くものです。
キャラクターは出来事によって感情の変化が起こったり、自分の行動によって精神的な影響が起こったりします。
“なぜ、選んだ行動によって得るものが「大切」なのか?”
“なぜ、選んだ行動によって失うものが「悲しい」のか?”
この、感情や精神の結果を「内的ステークス」と言います。
例の紹介です。
トイ・ストーリー
1995年公開、ピクサー初の長編アニーメーション映画にして、世界で約3億6000万ドルの興行収入を記録した『トイ・ストーリー』。
主人公の『ウッディ』は、バズがやってきたことで、アンディの「1番のおもちゃ」ではなくなります。
ウッディはバズに嫉妬したり、悪口を言ったりして、1番の座を取り返そうとしますが、なかなかうまくいきません。しかしウッディは物語の中で、自分の未熟さやプライドの高さと向き合います。そして、アンディは「自分だけの存在ではないこと」を学びます。
ウッディの場合、「友達の大切さ」や「エゴの気づき」が内的ステークスとなります。
3. 哲学的ステークス
哲学的ステークスとは、ストーリーの世界に影響を与えているものです。
“何が、世界の価値観を変えたのか?”
“もし、価値観を変えないとしたらどうなるのか?”
ストーリーの根底にある価値観、考え方、善悪などは全て「哲学亭ステークス」です。
例の紹介です。
ロード・オブ・ザ・リング
2001~2003年公開、シリーズ3部作全作品がアカデミー賞を受賞し、最大13部門にもノミネートした『ロード・オブ・ザ・リング』。
主人公の『フロド』は、火山に指輪を葬るため旅へ出ます。フロドは旅の途中で、何度も命を奪われそうになり、指輪の魅力に心を奪われそうにもなります。
もし、フロドが火山に指輪を投げ入れることができなければ、世界は闇の支配下です。
このような、ストーリーの「価値観や概念」を哲学的ステークスと言います。
ステークスのアドバイス
ピクサーのスタッフがステークスについてアドバイスをしているので、ご紹介します。
1. 自分が観客になったつもりで、“何が起こるか分からない”というステークスに心を奪われるべきだよ。
– ロニー・デ・カルメン:Story person, director, designer –
2. キャラクターアークにおける、最初のステークスはそこまで高くありません。ストーリーが進むとともに、ステークスは高まります。
– アートン・カービン:Storyboard Artist –
3. 僕たちはステークスの大きさについて、こんな風に話をするよ。
“生死が関わるぐらいのものか?”
“キャラクターが恥をかき、笑える程度のものか?”– オースティン・マディソン:Storyboard Artist –
4. キャラクターに起こるどんなことでも、観客の心の琴線に触れてもらうことが大切なの。
– ルイス・スマイス:Storyboard Artist –
ピクサーのスタッフはステークスでドラマを生み出します。キャラクターの全ての行動に「負荷」をかけることで観客の注意を惹きつけるのです。
【レッスン】ステークスを考えよう
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座のレッスンです。
今回のレッスンはステークスについて考えます。「3つの物語」と「障害」を使いますので、下記ページをご覧ください。
今回は3つのステップです。それでは、いきましょう!
1. 好きな物語の主人公
あなたが好きな3つの物語の主人公について、以下の3つを考えましょう。
- 高いステークスのとき、主人公はどのような選択をしましたか?
- それは、どのようなステークスですか?
- それは、内的、外的、哲学的のどのステークスに当てはまりますか?
2. あなたの人生
あなたの人生における、「すべきだった難しい選択」を思い出してください。
それは、どのようなステークスですか?
3. あなたのキャラクターのステークス
あなたのキャラクターの障害を1つ選びます。その障害によってキャラクターが選択しなければならない行動は何ですか?以下の2つを考えてください。
- キャラクターが選んだ行動によって、どのようなことが可能になりますか?
- それは、内的、外的、哲学的のどのステークスに当てはまりますか?
今回のレッスンは以上です。
あなたのキャラクターのステークスが書き出せた人は、コメント欄やTwitterに投稿してみてくださいね。
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【2-6】ステークス/Stakesのまとめ
ステークスのイメージはつきましたか?
外的ステーク、内的ステーク、哲学的ステークの違いは少し難しく感じるかもしれません。ですが、安心してください。今回はステークスの高低だけでもイメージできれば大丈夫です。
大切なのは、「キャラクターの世界」と「観客の世界」を同じように感じてもらうことです。
【2-6】ステークス/Stakesは以上です。
【2-7】ストーリー作りのアドバイス/Adviceへお進みください。
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【2-6】ステークス/Stakesの動画
【2-6】ステークス/Stakesの日本語翻訳
【登場人物】
ナレーター(Christian Roman:Story Artist)
ルイス(Louise Smythe:Storyboard Artist)
オースティン(Austin Madison:Storyboard Artist)
ロニー(Ronnie del Carmen:Story person, director, designer, trouble maker)
アートン(Aphton Corbin:Storyboard Artist)
前回までのレッスンでは、キャラクターが直面する「障害」や「決断」、そしてその「軌跡」について考えてきました。
それぞれ選択した行動には「潜在的なリスク」や「衝撃」、それに伴う「報酬」があります。これらを「ステークス」と言います。
– ステークスとは何ですか? –
ルイス:ストーリーの「ステークス」は1つの疑問に限ると考えています。
”なぜ私たちは気にかけるのか?”
もしニモとお父さんが再会できなかったら、なぜ私たちは心配するのか?
オースティン:”もし、キャラクターが失敗したら”という危機感が君たちにはある。「ステークス」が低いと、映画としては大抵面白くない。ステークスは高ければ高いほど、観客の緊張は高まり、より楽しめるんだ。
僕がずっと大好きな映画は『ジュラシックパーク』なんだけど、ステークスは極めて高い。もし何かに失敗したら「恐竜に食べられる」。ステークスはとても明快だよね。
ロニー:君たちは観客として、“何が起こるか分からない”というステークスに心を奪われるべきだよ。
アートン:キャラクターアークの初期段階では、ステークスはそこまで激しくありません。話が進んでいくと、ステークスは高まっていきます。
オースティン:僕らはよく、ステークスの「どれくらいの大きさ」にするかを話すよ。
“生と死ぐらいのものであるか?”
”キャラクターの名を知らせる程度で、コメディーくらいのものか?”
“そんなに注目をしないくらい、もっと小さなものなのか?”
大事なことは、「キャラクターの世界」と「観客の世界」を同じように感じてもらうことなんだ。
バライティ番組でも、出演者にとって番組が全てだと思って見てもらいたいだろ?『ナポレオンダイナマイト』も、最後に視聴者のみんなは、彼にショーで勝ってもらい、みんなに認めてほしいと思っているはずだよ。
ルイス:キャラクターに起こることはどんなことでも、心の琴線に触れてもらうことが大事なの。
もし何も感じてもらえなかったら、それまでだわ。
ナレーター:ステークスはドラマを生み出し、どんな選択した行動にも「重み」をつける。そしてステークスは3つに分類できます。
「内的ステークス」、「外的ステークス」、「哲学的ステークス」です。これについて、もっと話を聞いてみましょう。
– 外的ステークスとは何ですか? –
オースティン:「外的ステークス」とは文字通り、ストーリーの世界で起こっていることです。
迷子になっているのか、強盗に追われているのか。キャラクターの身体的に起こっていることや、キャラクターが迷い込んだ世界で起こっていることなど。
ナレーター:良い例が『メリダとおそろしの森』にあります。
魔女が作ったケーキを母親にあげることで、メリダは母親を熊にしてしまう。
これはメリダの直接取った行動が「身体的」に影響を与えていて、メリダにも母親にもストーリーにも同様に影響があります。メリダが魔女の謎を解き明かさないと、母親は永遠に熊のままですからね。
– 内的ステークスとは何ですか? –
ルイス:内的ステークスとは「心」に働くものよ。
“何がきっかけでキャラクターの「感情」や「精神」に変化が起こったのか?”
“このままだと何を失うのか?”
“何を獲得するのか?”
“なぜ、それを得ることが大切なのか?”
“なぜ、失うことは悲しく、困難なのか?”
これらの問いかけで、ステークスの本当の意味が分かると思うわ。
ナレーター:内的ステークスの良い例が、『トイ・ストーリー』にあります。
ストーリーを通じて、ウッディーは自分の未熟さとプライドに向き合い、バズと仲良くし、アンディはみんなのものだと学んでいく。ウッディにとっての内的ステークスは、自分以外のおもちゃとの「交友関係」と、「自我の気づき」です。
– 哲学的ステークスとは何ですか? –
ルイス:哲学的ステークスとは、世界に影響を与えているものよ。
“何が価値観や信仰を変えたのか?もしくは変えなかったのか?”
“もし、変えないとしたら、それはどんな意味があるのか?”
哲学的ステークスを説明するには、『ロード・オブ・ザ・リング』が良い例だと思うわ。もしフロドが火の中に指輪を投げ入れなかったら、ミドル・アースは永遠に悪魔に支配されていたわ。
ロニー:もし、ストーリーの中に「考え方」、「概念」、「善と悪」などが戦っていたら、それは哲学的ステークスだよ。
ナレーター:それでは、まとめてみましょう。
外的ステークスは、選択や行動がもたらす、「身体的な影響」です。
内的ステークスは、行動による精神的・感情的の結果です。
最後に、哲学的ステークス。あなたのストーリーの根底にある「考え」や「価値観」はなんですか?
「内的」、「外的」、「哲学的」の違いは、少し難しいです。
最後のレッスンでは、あなたの好きな映画を例にして、考えてみましょう。