こんにちは、ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。
ピクサーのストーリーテリングが学べるPixar in a Box。
Khan Academy(カーンアカデミー)が世界の人に世界レベルの教育を無償で提供する、オンライン講座の一つです。
今回は、Pixar in a Boxのストーリーテリング講座【5-4】エクストリームショット/Extreme shotsの解説です。(TOEIC950点かつピクサーファンの翻訳家が協力)
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座は1〜6章あり、5章は「映画技法/Film grammar」。
【5-4】エクストリームショット/Extreme shotsでは、ショットの中でも強調を演出する「エクストリーム(Extreme)ショット」について解説します。エクストリームショットはカッコよく演出できる一方で、使い方を誤ると観客の期待を裏切ります。
キャプチャー画像でも説明していますが、わかりづらい部分は実際の動画と日本語翻訳文と照らしながら学んでみてください。
後半のレッスンもチャレンジしてみてください!
※「ピクサーのストーリーテリング41ステップ」で講座の一覧が見れます。
※日本語の翻訳全文はページ下部に載せています。
エクストリームショット
エクストリームショットとは、重要なシーンにおいてより印象を強めるためのショットです。
ショットについては以下のページをご覧ください。
エクストリーム(Extreme)は「極端な」という意味です。
視覚的な効果が演出できる一方で、使い方を誤ると観客に与える印象が変わってしまうため、それぞれのショットの役割を学ぶ必要があります。
代表的な「エクストリーム・ワイドショット」と「エクストリーム・クローズアップ」を簡単に解説します。
エクストリーム・ワイドショット
エクストリーム・ワイドショットは、ストーリーの世界観をより大きく見せる効果があります。
キャラクターや物体のサイズ感を伝え、細かい部分を見えにくくもします。
エクストリーム・クローズアップ
エクストリーム・クローズアップとは、キャラクターや物体を画面いっぱいに見せるショットです。
画像のように、激しい感情や不快さを感じさせることができます。
アングル
アングルとはカメラの位置や向きのことです。
ここでは、アップショット、ダウンショット、ダッチアングルについて解説します。
アップショット
アップショットとは、カメラを低い位置から上向きに撮るショットです。
下からの目線で撮ることで、キャラクター同士の力関係や支配力が演出できます。
ダウンショット
ダウンショットとは、カメラを高い位置から下向きに撮るショットです。
上からの目線で撮ることで、キャラクターの立場が弱くなり、頼りなさや逃げ場のない演出ができます。
ダッチアングル
ダッチアングルとは、カメラを傾けて斜めから撮るショットです。
画面が傾くことで、キャラクターの混乱や不安定さをが演出できます。
ピクサー映画のエクストリームショットとアングル
ピクサー映画では様々なエクストリームショットとアングルが使われていますが、そのショットの全てに「意図」があります。
エクストリームショットとアングルは使いすぎると大切なポイントが伝わらなくなるため、ピクサー映画を参考に「ショットの意図」を知りましょう。
『トイ・ストーリー2』のエクストリームショット
1999年公開、ゴールデングローブ賞「映画部門 作品賞」を受賞した『トイ・ストーリー2』。
この作品で使われた「エクストリーム・ワイドショット」と「エクストリーム・クローズショット」を解説します。
バズやおもちゃの仲間たちがウッディを探すために「トイ・バーン(おもちゃ屋)」を訪れたシーンの「エクストリーム・ワイドショット」です。
このエクストリーム・ワイドショットの意図は、小さなおもちゃが探検しているということを人間界のサイズで伝えるためです。
人間界で小さなおもちゃが生きている姿を目にする喜びを観客に伝えるため、「エクストリーム・ワイドショット」を使って世界観を演出しています。
また、ウッディが博物館のおもちゃになりつつあるシークエンス(重要なシーン)では、「エクストリーム・クローズアップ」が使われています。
ウッディの目玉が綿棒で磨かれ、足裏の「アンディ」の文字がペンキで消されることで、アンディとの距離が離れていく様子を演出しています。
エクストリーム・クローズアップは、被写体の詳細を極端に見せることで、画面から余計な情報を省き、特別な意味を伝えます。
『Mr.インクレディブル』のアップショット
2004年公開、第77回アカデミー賞「長編アニメ映画賞」を受賞した『Mr.インクレディブル』。
主人公のボブがインクレディモービルを運転しているシーンで「アップショット」が効果的に使われています。
シーンでは強盗時間が発生し、ボブが犯人の車をGPSで追いかけます。
画面に映るGPSのアングルは通常のアングルですが、ボブの顔はGPSからの視点(アップショット)となっています。
今の出来事を強調し、ボブが犯人を追いかけるためのGPSの視点にカメラを配置することで、未来の行動を演出しています。
『ワン・マン・バンド』のハイアングル
『ワン・マン・バンド』は2006年に公開した『カーズ』と同時上映された短編アニメーション映画です。
少女「ティッピー」が持つ1枚のコインを巡って、2人の大道芸人「ベース」と「トレブル」が様々な芸を見せ合って争う物語です。
『ワン・マン・バンド』では「ハイアングルショット」をたった一度しか使いません。
「少女の気を引くために2人が争った結果、コインが下水溝に落ちてしまう」といった、ストーリーで1番のポイントを的確に伝えるため、他のシーンで「ハイアングルショット」を使わない選択をしました。
うつむく少女をカメラが上から見下ろす視点は、とても印象に残ります。
エクストリームショットのアドバイス
ピクサーのスタッフがエクストリームショットについてアドバイスをしているので、ご紹介します。
1. 映画に完全に引き込まれている時、まったく意味のないエクストリームショットで突然現実に引き戻されることがあるわ。
– キャサリン・リンゴールド:Editor –
2. エクストリームショットは「強調」が目的だから、あちこちに使い過ぎると、本当に強調したいことが伝わらなくなってしまうんだ。
– リー・アンクリッチ:Director –
3. 使い方にはとても慎重になるべきだよ。
映画でエクストリームショットを目にし過ぎると、気持ちがしらけるよ。
– ブライアン・ケーリン・オコネル:Story Artist –
4. 映画技法には規則があるけど、何が何でも従う必要はない。
でもあえて規則を破る前にしっかりと映画技法を理解することは大切だよ。
– リー・アンクリッチ:Director –
【レッスン】エクストリームショットとアングルを考えよう
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座のレッスンです。
今回は「エクストリームショット」と「アングル」について考えます。「3つの物語」と「マイナービート」を使いますので、下記ページをご覧ください。
今回は2つのステップです。それでは、どうぞ!
1. 好きな物語のエクストリームショットとアングル
あなたの好きな3つの物語から1つの作品を選び、「エクストリームショット」や「アングル」が効果的なシーンを選択し、以下4つについて考えましょう。
- どのような「エクストリームショット(ワイドやクローズアップ)」や「アングル(ハイアングル、アップショットなど)」が使われていますか?
- そのショットはストーリーでどのような役割を果たしていますか?
- そのショットはどのような感情的な効果がありますか?
- そのショットで観客の視線を集めるための視覚的な情報(線、形、空間、動き、トーン、色)はありますか?
視覚情報については以下のページで解説しています。
こんにちは、ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。ピクサーのストーリーテリングが学べるPixar in a Box。Khan Academy(カーンアカデミー)が世界の人に世界レベルの教育を無償で提供す[…]
2. あなたの物語のエクストリームショットとアングル
あなたの物語の「マイナービート」について、以下3つを考えましょう。
- 「エクストリームショット」や「アングル」が効果的となるマイナービートを選択してください。
- なぜそのマイナービートを選びましたか?ストーリーで果たす役割を考えましょう。
- そのショットはどのような感情的な効果がありますか?
今回のレッスンは以上です。
「エクストリームショット」や「アングル」が書き出せた人は、コメント欄やTwitterに投稿してみてくださいね。
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【5-4】エクストリームショット/Extreme shotsのまとめ
エクストリームショットは、強調が目的です。
使いすぎるとあなたのストーリーの大切なポイントが伝わらなくなるため、最も効果的となるシーンを考えましょう。
【5-4】エクストリームショット/Extreme shotsは以上です。
【5-5】ダイナミックショット/Dynamic shotsへお進みください。
※「ピクサーのストーリーテリング41ステップ」で講座の一覧が見れます。
こんにちは!ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。ピクサーは世界が認めるストーリーテリングの伝道師。ピクサーの全21作品(1995年〜2019年)は、アニメ映画賞の最高峰と言われるアカデミー賞「長編[…]
【5-4】エクストリームショット/Extreme shotsの動画
【5-4】エクストリームショット/Extreme shotsの日本語翻訳
【登場人物】
ナレーター(Louis Gonzales:Story Artist)
アンドリュー(Andrew Jimenez:Digital Storyboard Artist,Director)
リー(Lee Unkrich:Director)
キャサリン(Katherine Ringgold:Editor)
ブライアン(Brian Kalin O’Connell:Story Artist)
ナレーター:
前回の動画では、画面構成と演出の基本を学びました。重要さと印象を強めるため、カメラにもっと視覚的効果を持たせることがあります。
例えば「エクストリーム・ワイドショット」は、ストーリーの世界の大きさを見せ、サイズ感を伝え、細かいところを見えにくくします。
反対に「エクストリーム・クローズアップ」は、撮影している物を画面いっぱいに見せることで、激しい感情やひどい不快さを感じさせます。
また、様々な「アングル」から動きを撮影することもできます。
例えば、カメラを低い位置から上向きにすると「アップショット」になり、キャラクターの力や支配を感じます。
アップショットの逆が「ダウンショット」で、カメラを上から下に向けて撮影します。キャラクターの立場が劣り、たよりなく、逃げ場がなく感じますね。
もうひとつのショットは「ダッチアングル」で、カメラを傾け斜めから撮影します。傾いたショットから伝わるのは混乱や不自然さ、または不安定さです。
ピクサーのアーティストに異なるショットの使い方を聞いてみましょう。
– アングルとエクストリームショットはどのように使いますか? –
アンドリュー:
カメラが下からのアングルで見上げるか、高い位置から見下ろすかは、キャラクターの動きや視点によって決めるんだ。
『ワン・マン・バンド』の「ハイアングルショット」は映画の中でたった一度しか使われず、硬貨が落ちた下水溝を少女がのぞく時だけで、他では絶対に使わなかった。
うつむいている少女をカメラが上から見下ろすハイアングルで、ストーリーの要点を伝える選択をしたんだ。
『Mr.インクレディブル』の最初に、インクレディモービルを運転しているボブはボタンを押してスーパーヒーロー・カーに変形させ、GPSシステムを見ている。
カメラはボブが触っている装置の辺り、つまり下からボブを見上げている。キャラクターの視線の先の今起きている出来事を強調する場所に、カメラを配置するんだ。
リー:
エクストリーム・クローズアップやエクストリーム・ワイドショットを効果的に使える時もある。
『トイ・ストーリー2』でおもちゃたちが「トイ・バーン」に初めて入っていくシーンで、極端なワイドショットを使ったよ。人間の世界のサイズのおもちゃ屋で小さなおもちゃたちが歩いていることを、観客に確認させるためさ。
そして映画の作り手にとっても、時には観客に小さなおもちゃたちが人間の世界で生きている姿を目にする喜びを伝えるショットでもあるんだ。
逆に、エクストリーム・クローズアップで極端に物の詳細を見せたい時もある。
『トイ・ストーリー2』のウッディがきれいにされるシークエンスでは、ウッディの目玉が綿棒で磨かれ、足の裏のエクストリーム・クローズアップでは、「アンディ」の文字がペンキで消される。
特別な意味を伝えるために画面から余計な情報を省き、とても細かい一点だけを見せているよ。
– 避けるべきことは? –
キャサリン:
映画に夢中になるのが大好きよ。初めて観る映画にワクワクして完全に引き込まれている時、まったく意味のないエクストリームショットに突然現実に引き戻されることがあるわ。楽しみたいのに、なぜ不自然なショットを見せるのか不思議よ。
リー:
エクストリームショットは「強調」することが目的だから、あちこちに使い過ぎると、本当に強調したいことが伝わらなくなってしまうんだ。
ブライアン:
使い方にはとても慎重になるべきだよ。
僕も最初はカッコいいエクストリームショットを気に入っていたけど、ひとつのエクストリームショットの代わりに構成を考えながら複数の絵にする方が本当は好きだと気づいたんだ。
また、観客として映画でエクストリームショットを目にし過ぎると、気持ちがしらけるよ。
リー:
全部をエクストリーム・クローズアップで撮影しても構わないんだ。映画の制作や映画の文法には規則があるけど、規則を破ってもよく、何が何でも従う必要はない。
でも勿論、あえて規則を破る前にしっかりと映画の文法を理解することは大切だよ。
ナレーター:
画面構成と演出は自由に使えます。
でも覚えておきたいのは、ストーリーが持つ感情を最も効果的に伝える方法を選ぶことです。
次のレッスンで練習してみましょう。