【3-4】第1幕/Act 1/Pixar in a Box

こんにちは、ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。

ピクサーのストーリーテリングが学べるPixar in a Box
Khan Academy(カーンアカデミー)が世界の人に世界レベルの教育を無償で提供する、オンライン講座の一つです。

今回は、Pixar in a Boxのストーリーテリング講座【3-4】第1幕/Act 1の解説です。(TOEIC950点かつピクサーファンの翻訳家が協力)

Pixar in a Boxのストーリーテリング講座は1〜6章あり、3章は「ストーリーの構成/Story structure」。

【3-4】第1幕/Act 1は、ストーリーの構成で最も多い「3幕構成」の「第1幕」についてお話しします。第1幕は観客の心を掴んで物語の世界へ導く大切なパートになりますので、ぜひ後半のレッスンもチャレンジしてください。

それでは、どうぞ!

「ピクサーのストーリーテリング41ステップ」で講座の一覧が見れます。
※日本語の翻訳全文はページ下部に載せています。

第1幕とは

第1幕とは、ストーリー構成の最初の幕で、「物語の始まり」〜「主人公の世界で起こる事件」までを指します。

映画、舞台、小説、歌舞伎など、多くの物語は「幕」で分けられていますが、映画のストーリー構成において、最も多く使われるのが「3幕構成」です。

第1幕では、伝えることは主に以下の5つです。

  1. 主人公やメインキャラクターの登場
  2. キャラクターの世界観
  3. ストーリーのジャンル
  4. 主人公の実現したいこと(ウォンツ)
  5. 主人公の障害と「悪」の登場による転機

一般的に、「悪」とはキャラクターの「実現したいこと(ウォンツ)」「必要なもの(ニーズ)」を妨げる、外からの力を言います。(※【2-3】ウォンツとニーズ/Wants vs. Needs

悪の登場によって起こる「転機」は、主人公を次の世界へと導きます。主に転機は第1幕の終盤で起こり、主人公の世界をひっくり返すできごとで、観客の注意を惹きます。

そのため、第1幕では観客の心をキャラクターに向ける必要があります。

観客には、キャラクターの大切なモノや思いに共感してもらい、それが転機によって遠のき不安を与えることで、第2幕で解決できるように願ってもらうのです。

8ステップの第1幕

ストーリーの8ステップ

8ステップとは、物語の大まかな流れを組み立てるのに役立つ、ストーリー構成の型です。(※【3-2】ストーリーの8ステップ/Story spineで解説)

以下が、8ステップです。

  1. 昔々、あるところに〜〜
  2. 毎日、〜〜
  3. しかしある日、〜〜
  4. このせいで、〜〜
  5. そのため、〜〜
  6. そのせいで、〜〜
  7. ついに、〜〜
  8. それ以来、〜〜

第1幕は、8ステップの前半の3ステップを指します。
それぞれのステップについて説明します。

ステップ1「昔々、あるところに〜〜」

ステップ1「昔々、あるところに〜〜」は、主人公やメインキャラクターの登場です。物語が「いつ」「どこで」起こっているのかを伝え、主人公の悩みや恐れを伝えます。

ステップ2「毎日、〜〜」

ステップ2「毎日、~~」は、キャラクターの世界観です。サンゴ礁やゴミの惑星など、キャラクターがどのような世界で生活しているかを伝えます。

ステップ3「しかしある日、〜〜」

ステップ3「しかしある日、〜〜」は、物語の転機です。転機は「事件」とも呼ばれ、物語が大きく動くきっかけになります。

主人公の「実現したいこと(ウォンツ)」が遠のくことを伝えます。

ピクサー映画の第1幕

ピクサー映画も3幕構成です。実際に、ピクサー映画の第1幕がどのようになっているか見てみましょう。

ファインディング・ニモの第1幕

スキューバダイビングの水中のニモ(カクレクマノミ)の家族

『ファインディング・ニモ』の第1幕は、「物語の始まり」〜「ニモがダイバーに連れて行かれる」までです。

ステップ1「昔々、あるところに〜〜」は、安全なサンゴ礁に住むマーリンとニモが登場します。そして、マーリンの妻がオニカマスによって食べられてしまったことがわかり、なぜマーリンが広い海を恐れるのかがわかります。

ステップ2「毎日、〜〜」は、サンゴ礁の世界で生活する他の生き物たちの登場です。キャラクターたちの毎日の生活がわかり、ニモは学校へ行くことになります。

ステップ3「しかしある日、〜〜」は、ニモがダイバーに連れて行かれます。マーリンの言いつけを破ったニモは、ボートを触ろうとしてダイバーに捕まってしまいます。

そして、マーリンはニモを救うため、心の現実の「障害」である広い海へ行かなければならなくなります。

ここまでが、『ファインディング・ニモ』の第1幕です。

ウォーリーの第1幕

孤独に地球を探索するロボット

『ウォーリー』の第1幕は、「物語の始まり」〜「イブの登場」です。

ステップ1「昔々、あるところに〜〜」は、ゴミの惑星に住むウォーリーの登場です。ゴミまみれの世界でひとりぼっちで寂しいウォーリーの様子が描かれます。

ステップ2「毎日、〜〜」は、毎日ゴミを集めるウォーリーの世界観です。小さな緑の葉っぱ以外に生命はないのにも関わらず、ウォーリーは「愛」を信じています。

ステップ3「しかしある日、〜〜」はイブが登場し、ウォーリーは恋をします。しかし、イブが急に動かなくなり、ロケットで宇宙へ連れ去られようとするところを、ウォーリーは追いかけます。

ウォーリーは、自分はただプログラミングされたロボットではないという「心の障害」に立ち向かうのです。

ここまでが、『ウォーリー』の第1幕です。

第1幕のアドバイス

笑顔を向けている中年男性の

ピクサーのスタッフが第1幕についてアドバイスをしているので、ご紹介します。

1. 第1幕では、キャラクターを紹介し、ストーリーを紹介し、ストーリーがどこへ向かっているのかを伝えるんだ。

– ロバート・グラムジョーンズ:Editor –

2. 第1幕で欠かせないのはでキャラクターが「キャラクターの世界を紹介」することよ。そうすれば、世界でのキャラクターの居場所や問題が伝わるわ。

– メアリー・コールマン:Head of Creative Development –

3. 観客は、キャラクターを十分理解できるから味方になり、キャラクターと同じ体験をしたくなるんだ。つまり、第1幕で大切なことは観客をつかみ離さないことさ。

– ケビン・オブライエン:Story Artist –

ピクサーのスタッフにとって第1幕とは、ただの物語の始まりではなく、キャラクターの心をしっかりと伝えることで、観客の心を掴むパートとして考えられています。

【レッスン】第1幕を考えてみよう

白い壁紙に今すぐ試すと書かれた文字と青い矢印

Pixar in a Boxのストーリーテリング講座のレッスンです。

今回のレッスンは第1幕について考えます。「3つの物語」と「8ステップ」を使いますので、下記ページをご覧ください。

今回は2つのステップです。それでは、いきましょう!

1. 好きな物語の第1幕

あなたの好きな3つの物語の第1幕について、以下の5つを書き出しましょう。

  1. 主人公はで、どのようなキャラクターですか?
  2. 「いつ」、「どこで」起こっていますか?
  3. どのようなジャンルですか?また、なぜジャンルがわかりましか?
  4. 「事件」は何ですか?そして、事件によってどのような問題が起こりますか?
  5. 「悪」は何ですか?

2. あなたの物語の第1幕

あなたの物語の第1幕について、以下の2つを考えましょう。

  1. 「誰が」「いつ」「どこで」「何が」起こりますか?
  2. あなたの物語の8ステップの、ステップ1〜ステップ3をそれぞれ100文字以内で具体的に表現してみましょう。

今回のレッスンは以上です。
第1幕が書き出せた人は、コメント欄やTwitterに投稿してみてくださいね。

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【3-4】第1幕/Act 1のまとめ

第1幕で、観客の心を掴まなければ物語は見てもらえません。そのためには、キャラクターの心に共感してもらう必要があります。

第1幕でストーリーの設定やキャラクターの心を伝えることで、第2幕へ導きましょう。

【3-4】第1幕/Act 1は以上です。
【3-5】第2幕/Act 2へお進みください。

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タイプライターでact2と書かれている

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オレンジ色の背景にストーリーテリングと描かれたカチンコ

【3-4】第1幕/Act 1の動画

【3-4】第1幕/Act 1の日本語翻訳

【登場人物】
ナレーター(Derek Thompson:Story Artist)
ロバート(Robert Grahamjones:Editor)
メアリー(Mary Coleman:Head of Creative Development)
ケビン(Kevin O’Brin:Story Artist)
ジェームス(James Robertson:Story Artist)

ナレーター:前回の2つの動画では、物語の「テーマ」と「8ステップ」を使って物語を「ビート」で区切ることを学びました。

次のステップでは、ストーリーの8ステップをより大きな区切りである「幕」に分けていきます。

これまで歴史の中でストーリーは、1幕から8幕以上まで多くの「幕」で分けられていました。そして、映画で最も多く使われるのが「3幕構成」になります。

「1幕」は、ストーリーの8ステップの最初の3ステップの、「昔々、あるところに〜」から始まります。ステップ1では、主人公であるメインのキャラクターが登場し、物語が「いつ」「どこで」起こっているかがわかります。

例えば、『ファインディング・ニモ』では、安全なサンゴ礁に住むマーリンとニモが登場し、なぜマーリンが「広い海を恐れるのか」もわかります。

また「1幕」では、この映画は「SF」、「ラブコメディ」、「歴史物」、それとも他のジャンルの映画なのかがわかります。

次は「毎日、〜」です。ステップ2ではキャラクターの世界の仕組みを伝えます。

例えば、『ファインディング・ニモ』では、サンゴ礁に住む他の生き物たちと、その毎日の生活が伝わります。

そして「しかし、ある日〜」。ステップ3は「転機」とも呼ばれ、主人公が直面する重大な「事件」のことです。事件は物語が大きく動き始めるきっかけになります。

例えば、『ファインディング・ニモ』で、ニモはお父さんの言いつけを破り、ボートを触ろうと飛び出したところをダイバーに捕まります。マーリンはニモを救うため、自分が最も恐れる「広い海」へ行かなければなりません。

1幕では、さらに「敵対者」が登場することもあり、これはあなたも知っている「悪役」のことで、色んな姿形(すがたかたち)をしています。

一般的に、「敵対者」はキャラクターの「必要なもの」や「実現したいこと」を妨げる、「外からの力」のことを言います。マーリンの「敵対者」は、マーリンを邪魔する何かで、「広い海」と「海を恐れる気持ち」です。

1幕をよく理解することはとても重要です。それでは、ピクサーのストーリーアーティストに詳しく教えてもらいましょう。

– 「1幕」についてどのように考えていますか? –

ロバート:1幕では、キャラクターを紹介し、ストーリーを紹介し、ストーリーがどこへ向かっているのかを伝えるんだ。

メアリー:1幕で欠かせないのは「キャラクターの世界」でキャラクターを紹介することよ。そうすれば、その世界でのキャラクターの居場所や問題が伝わるわ。

ケビン:キャラクターを十分理解できるから味方になり、この映画の作り手やキャラクターと同じ体験をしたくなるんだ。つまり、第1幕で大切なことは観客をつかみ離さないことさ。

ジェームズ:『ウォーリー』は、1幕で凄まじい力を発揮するんだ。ゴミの惑星という暗黒の世界から始まるのに、こんな場所にもウォーリーという理想を求める存在がいる。

ロボットなりに、自分とは正反対の考えを持つ者が残したごみの世界にでさえ、「愛はあり得る」と信じる。小さな緑の葉っぱ以外に何も根拠はないのに、可能性を確信するんだ。

そこにイブが現れて、自分たちはプログラミングされた以上のこと、残された世界以上のことができるという、ウォーリーの理想を確信させるんだ。

– 「転機」とは何ですか? –

ロバート:「転機」が対立を引き起こすこともあって、その対立がメインのキャラクターを映画の次の場所へと旅立たせるんだ。

メアリー:私が思いつくほとんどの場合「転機」は1幕の終わり近くに起きるの。1幕でキャラクター達と彼らにとって大切なこと、そしてキャラクターが住む世界の様子を設定した後で、その世界をひっくり返すような「転機」が起きて、2幕へと導くのよ。

ジェームズ:『ウォーリー』の「転機」は、イブがロケットに乗せられ地球から飛び立とうとするところを、ウォーリーが追いかける時だよ。ウォーリーはイブを取り戻す目的を持ったんだ。ウォーリーはロボットで僕とはまったく立場が違うけど、この時のウォーリーの気持ちが完全に伝わり、他者との絆や愛、彼が叶えたいすべてを手に入れてほしいと願ったんだ。

僕が感じる、的確で美しく、心に響く1幕さ。

メアリー:見事に描かれた1幕では、観客の心がキャラクターに向き、キャラクターを大切に思い、大切なことに共感するの。だから、それが奪われかけたり不安な状態になると、キャラクターがその問題を2幕では解決できるように、願わずにいられないの。

ナレーター:1幕では、ストーリーを設定します。メインのキャラクターとその世界のすべてを知る場所で、次に心を傾ける何かが見つかるのも1幕です。

次のレッスンでは、あなたの好きな映画の「1幕」はどこか探してみましょう。そして、自分が書きたいストーリーの「1幕」も考えてみてください。