こんにちは、ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。
ピクサーのストーリーテリングが学べるPixar in a Box。
Khan Academy(カーンアカデミー)が世界の人に世界レベルの教育を無償で提供する、オンライン講座の一つです。
今回は、Pixar in a Boxのストーリーテリング講座【5-6】絵コンテ/Storyboardingの解説です。(TOEIC950点かつピクサーファンの翻訳家が協力)
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座は1〜6章あり、5章は「映画技法/Film grammar」。
【5-6】絵コンテ/Storyboardingは、映画の土台となる「絵コンテ」の描き方についてです。『レミーとおいしいレストラン』のワンシーンが実際にどのように考えて作られているか覗いてみましょう。
わかりづらい部分は動画と日本語翻訳文と照らしてください。
後半のレッスンもどうぞ!
※「ピクサーのストーリーテリング41ステップ」で講座の一覧が見れます。
※日本語の翻訳全文はページ下部に載せています。
【5-6】絵コンテ/Storyboardingの動画
【5-6】絵コンテ/Storyboardingの日本語翻訳
【登場人物】
ナレーター(Louis Gonzales:Story Artist)
ナレーター:
ここまでで、画面構成、演出、そしてカメラワークの練習をしました。
次は学んだすべてを使って絵コンテの作成をしましょう。決まった描き方はありませんので、僕の絵コンテの描き方をお見せましょう。
『レミーのおいしいレストラン』で、料理批評家のアントン・イーゴが「グストー」で料理を注文するシーンがあります。
シーンの冒頭でウエイターのムスタファは緊張をしながら、レストランに入って来たイーゴの注文を取りに来ます。
イーゴは、注文を理解できないムスタファに対して突然立ち上がり、注文を納得させて席につきます。
このシーンを絵コンテにするため、こんな風に考えました。
まず、ストーリーテリングのショットを意識しながら、画面の枠を描きます。
次にイーゴの目的を設定するための構成を考えます。
イーゴは自分の主張を通したく、「グストー(お店の名前)」に疑いを持っています。ということはイーゴに権力があるので、まずイーゴを下からのアップショットにしてみましょう。
上手くいくかは別にして、色々なことを試して何か面白いものができないか探ります。
イーゴが一人でいる設定が必要なので、彼の周りに他のテーブルで食事を楽しむ人たちを描いてみます。
一番表現したいのは、イーゴが画面の中心であることです。レストランのお客さんたちの後ろ向きの姿も描いてみます。
やっぱりイーゴをもう少し後ろに置き、イーゴがテーブルより大きく見えるようにしましょう。
昔のハリウッド映画で、人気俳優のクリント・イーストウッドを大きく見せるためドアを小さくしたのと同じ方法を使います。
イーゴの周りで食事をしている人たちをテーブルより小さく見せ、イーゴを一番大きい存在にします。画面構成の手法を使えば、視線がイーゴに向きますね。
気に入ったからこの絵を使うことにしましょう。
次に、他に何が起きるか考えます。
ウエイターのムスタファがそのうちやって来るので、イーゴとムスタファの関係を描きましょう。
今の段階でキャラクターを描く時は、僕がやっているように大ざっぱにすることがとても大切です。
イーゴは大きな釘かハゲタカのようで、真っ黒なからだに白い細長い頭がついています。一方ムスタファは、もっとぽっちゃりして丸みがあり、どっしりしています。
二人の姿のアイデアは後で利用し、最初はキャラクターを簡単な形にしておきます。
下からのアップショットにしたいので、ムスタファを少し前かがみで首が引っ込んでいるようにし、からだの前で手を組ませます。
キャラクターの支配力を伝えるアップショットですが、二人の向きを反対にした場合も、支配力は大きさで伝えます。
イーゴの大きな背中が画面のほとんどを占めたアップショットですが、ムスタファを画面に小さく入れます。
イーゴが画面を支配し、不快さを感じますね。使うかどうかはわかりませんが、気に入ったのでこの絵に印をつけておきます。
「肩越し」のショットができたら次に、「切り返しショット」と呼ばれる二人のやり取りを反対側から見たショットが必要です。
「肩越しショット」とは人物の肩越しにカメラで撮影することです。二人の会話を反対側から見る時、イーゴよりムスタファを大きくしてしまうと、キャラクターの支配関係が入れ替変わって観客を混乱させるため、避けなければなりません。
代わりにさっきの「肩越しショット」を補足するため、このように考えます。小さくなったイーゴの周りの空間は広くし、ムスタファの空間は狭くします。
そしてこのシーンのヤマ場である「クライマックス」を作ります。
「クライマックス」とは、シーンに変化が起きる瞬間のことです。「ストーリー構成」で学んだように、キャラクターは最初の地点から障害を乗り越え頂点である「クライマックス」に達し、その後「解決」を見つけます。
同様にシーンの中にも変化が必要です。
このシーンの変化は、イーゴとムスタファの言いたいことが伝わらない瞬間です。
不満を感じたイーゴはムスタファの顔に近づくなど、どうにかして注意を引き、権力を示さねばなりません。イーゴが二人の関係を支配しているのです。
そこで複雑なイーゴのアップショットや、立ち上がるイーゴと一緒にカメラが動き、恐ろしい顔のイーゴが画面の1番から2番で立ち上がる姿のショットが考えられますが、相手とのつながりがありません。はっきりとわかりやすいショットが必要なのです。
このような時、以前みなさんが学んだように、はっきりとわかりやすい「極端な」ショットが役立ちます。
このシーンをもし横からの「サイドショット」にするとしたら、キャラクターの二人をこんな風に描きます。
そして僕ならムスタファを無防備に立たせ、イーゴをムスタファに食ってかかるようにします。イーゴがムスタファの顔に向かって立ち上がるので、ムスタファは少し怯えます。
ムスタファを含めみんなイーゴを怖れています。二人のちょっとした動きで、シーンを大きく変化させることができるのです。
立ち上がった動きをこのまま使い、さらにこの瞬間を強調するためにムスタファとイーゴに近づきます。つまり、ムスタファに食ってかかるイーゴとムスタファにもう少し近づいた画面構成にするのです。
同じ設定ですが、距離を変えてもう一度描くことで、この瞬間を強調します。イーゴがムスタファへ向かって立ち上がると同時に二人のクローズアップに切り替え、動きを終了します。
こうすることで、イーゴが立ち上がる動作の次に、二人の表情が見せられます。イーゴの顔が画面に入ってくるとムスタファはからだを反らし、ムスタファの顔をこのような感じでわずかに変化させ、派手な表現はしません。
これが僕の考えるクライマックスです。それではこのシーンを完成させましょう。
ここまでで気に入ったいくつかのショットをつなげ、シーンの展開を決めます。
まず、冒頭のシーンが必要なので、先ほどの「イーゴが中央に座っているショット」を使います。
2番目のショットは、ムスタファが無意識にカメラの方を向き、(イーゴの注文を取るのか・・・)という大きな溜息をつき動き出します。ムスタファは頭をうなだれ、緊張した様子でイーゴへ向かって歩いて行きます。
そこでムスタファがイーゴの方へ向かう瞬間、僕ならカメラの「ダイナミクスショット」を使います。実際に使うかどうかは別にして、気に入ったショットを構成してみましょう。横からの「サイドショット」でムスタファがイーゴの所へ歩きながら向かい、注文をとります。
次のショットは既に考えたように、イーゴが威張っているアップショットです。
ムスタファが“ご注文は?”と言うと、さっき僕が説明した反対側からの「切り返しショット」になり、ムスタファの肩越しから見えるイーゴの周りにたくさんの空間を持たせます。
次のショットではイーゴがムスタファを見ていますが、カメラがムスタファの後ろからイーゴに近づき、ムスタファは画面から見えなくなります。
なぜなら、イーゴが注文する時の“シェフの将来性が見たい”という言葉を強調したいからです。そしてさらにイーゴに近づき、返事に困ったムスタファとイーゴとの距離を近づけます。
ここで、先ほどのサイドショットに戻ります。イーゴがムスタファの顔を目がけて立ち上がり、ショットを切り替えてこの瞬間を強調します。
イーゴが立ち上がるとムスタファはイーゴの支配力を避けるため、少しからだを反らせます。
そしてこのレストランを見下しているイーゴが“私に出せる最高の料理を食べてやろう”と言います。この瞬間がイーゴとムスタファのシーンで一番伝えたいことです。僕がシーンを色々と試しているうちに、一番大切なショットができ上がりました。
そうしたら、前に考えた大まかなショットを基に画面上の調整をします。もっと効果的なシーンになるように改善しますが、良い絵コンテの基礎ができました。
完成した絵コンテを見てみましょう。
映像では絵が詳しく描き込まれていますが、絵コンテの作成中は、綺麗な絵を描く必要はありません。「ピッチ」は、わかりやすい大ざっぱな絵で十分です。
ムスタファ:
(ため息)
えー、今夜のご注文はお決まりですか?
イーゴ:
ああ、そうだな。おたくの新米コックがやたら評判いいようだ。そこで是非とも味わいたいのは、彼の「将来性」。そう、新鮮で濃厚ではっきりとした将来性を見せてほしい。それに合うワインは何かな。
ムスタファ:
何と、ですか?
イーゴ:
将来性だよ。もうなくなったのか?
ムスタファ:
それは…そんな…。
イーゴ:
もういい。ここに将来性はないようだし、そもそもこの街のどこにもそんなものはないから。こうしようじゃないか。料理を出してくれたら、私が将来性を判断しよう。これに合うワインはシュバルブランの47年ものだ。
ムスタファ:
あの、それで、料理のご注文は?
イーゴ:
リングイニシェフにこう言ってくれ。君がたべさせたい物を食べてやろうと。この私を一番の得意技で倒してみせろ。
ナレーター:
あなたもストーリーを絵コンテにしてみましょう。
たくさんの練習、描き直し、修正が必要なので、何度もやり直して満足する絵コンテにしましょう。挑戦し続けることが大切です。
【レッスン】絵コンテを描こう
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座のレッスンです。
今回は「絵コンテ」を描きます。映像技法の最後のレッスンであり、今まで学んだ内容の総集編です。集中して絵コンテを描くためには少なくとも1時間以上は必要になります。
それでは、どうぞ!
あなたの物語の絵コンテ
あなたの好きな物語で1つのシーンを選び、マイナービートに分解しましょう。
マイナービートについてはこちらからどうぞ。
こんにちは、ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。ピクサーのストーリーテリングが学べるPixar in a Box。Khan Academy(カーンアカデミー)が世界の人に世界レベルの教育を無償で提供す[…]
- 分解したそれぞれのマイナービートのショットをいくつか考えましょう。
次に、絵コンテを描きます。今回の講義のように、簡単な図面を用意してシーンの「演出」、「画面」、「カメラの動き」を、以下4つのポイントを意識して描いてみましょう。
- まずはたくさん失敗しましょう。改善して描き続けることはあなたの成長につながります。
- あなたの「意図」を他の人がわかるように「簡単なセリフ」を書いてみましょう。
- あなたの「意図」を他の人がわかるように「アイコン(線、矢印、画面のアップ、動きの方向、ショットの種類、カメラの動き)」を書いてみましょう。
- 絵コンテを描くためのオンラインツールやインデックスカードもあります。自分が描きやすいツールを使ってください。
今回のレッスンは以上です。
絵コンテが描けた人は、コメント欄やTwitterに投稿してみてくださいね。
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【5-6】絵コンテ/Storyboardingのまとめ
絵コンテに決まった描き方はありません。映像技法で学んだすべてを生かして描いてみましょう。
絵コンテはあなたのストーリーの土台となります。
ぜひ、何度も繰り返してチャレンジしてくださいね。
【5-6】絵コンテ/Storyboardingは以上です。
【5-7】映画技法のアドバイス/Adviceへお進みください。
こんにちは、ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。ピクサーのストーリーテリングが学べるPixar in a Box。Khan Academy(カーンアカデミー)が世界の人に世界レベルの教育を無償で提供す[…]
※「ピクサーのストーリーテリング41ステップ」で講座の一覧が見れます。
こんにちは!ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。ピクサーは世界が認めるストーリーテリングの伝道師。ピクサーの全21作品(1995年〜2019年)は、アニメ映画賞の最高峰と言われるアカデミー賞「長編[…]