こんにちは、ストーリーライターのそーじろ(@sojiro_story)です。
ピクサーのストーリーテリングが学べるPixar in a Box。
Khan Academy(カーンアカデミー)が世界の人に世界レベルの教育を無償で提供する、オンライン講座の一つです。
今回は、Pixar in a Boxのストーリーテリング講座【2-5】キャラクターアーク/Character arcの解説です。(TOEIC950点かつピクサーファンの翻訳家が協力)
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座は1〜6章あり、2章は「キャラクター/Character」。
【2-5】キャラクターアーク/Character arcは、キャラクターの変化を描く「孤(こ)」についてお話しします。キャラクターの「孤」をイメージすることで、ストーリーに臨場感が生まれますので、ぜひ後半のレッスンもチャレンジしてください。
それでは、行きましょう!
※「ピクサーのストーリーテリング41ステップ」で講座の一覧が見れます。
※日本語の翻訳全文はページ下部に載せています。
キャラクターアークとは?
キャラクターアークとは、キャラクターに起こる「感情」や「環境」の変化です。
キャラクターはストーリーの中でたくさんの障害に出会います。障害によって取るキャラクターの行動は、良くも悪くもキャラクターを変化させます。ストーリーの始まりから終わりまでの障害による変化を「孤(こ)」で描き、これを「キャラクターアーク」と呼びます。
ピクサーのキャラクターを例にしましょう。
ボブ:Mr.インクレディブル
2004年公開、第77回アカデミー賞「長編アニメーション映画賞」を受賞した『Mr.インクレディブル』
主人公の『ボブ』の欲求は「ヒーロー」であることです。ある日、ボブは家族に内緒でシンドロームに招かれた島の戦闘ロボット『オムニドロイド』と戦います。
ボブにとって、オムニドロイドは大きな障害です。最初の戦いはギリギリで勝ちますが、力の拮抗は観客から見てもわかる通りです。
その後、また一人でオムニドロイドと戦うも、今度は敗れて捕らわれます。
ボブは、自分がヒーローになれたのは、「家族が一緒にいたから」ということに気づきます。障害によってボブの環境や感情に変化を起こし、それが「孤」を描きます。これが「キャラクターアーク」です。
ヨロコビ:インサイド・ヘッド
2015年公開、アカデミー賞、アニー賞、ゴールデングロブ賞と数々の賞を総なめにした『インサイド・ヘッド』。
主人公の『ヨロコビ』の欲求は「ライリーをいつも幸せにしたいこと」です。
ある日、ヨロコビとカナシミが「思い出の保管所」に落ちてしまったことで、ライリーの「喜びの感情」がだんだんと消えていきます。これは『インサイド・ヘッド』における代表的な障害です。
ヨロコビは記憶のゴミ捨て場でライリーがアイスホッケーのチームメイトに胴上げされる「喜びの記憶」を発見します。そのとき、ヨロコビは“ライリーは悲しみの感情を経ていたからこそ、喜びの感情を得ていたこと”に気づきます。
ライリーにも「悲しみの感情」が必要だと分かり、ヨロコビの行動に変化が起きます。カナシミと一緒に司令部に戻るため、全力を尽くすのです。
ヨロコビは、ライリーには「悲しみ」、「恐怖」、「怒り」、「イライラ」など、全ての感情があった方が幸せであることを学びます。それは、ヨロコビの欲求より大切なことです。
キャラクター作りでは、キャラクターが障害に出会うことで、今までと違う行動を起こすことが大切になります。
キャラクターアークのアドバイス
ピクサーのスタッフがキャラクターアークについてアドバイスしていますので、ご紹介します。
1. キャラクターアークを考えるとき、「キャラクター」、「障害」、「ゴール」の1つ1つを考える必要があるわ。キャラクターがゴールに到達するためには、障害を乗り越えなければならないの。
障害は「キャラクターが誰であるか」を表し、「新しい人物」にする。これが「弧」を描くの。
– ルイス・スマイス:Storyboard Artist –
2. 君の好きな物語のキャラクターは、最初は何もない「平凡な状態」に近いよね。でも物語の終わりには成長して「最初より良い状態」に変化しているはずだよ。
– ロニー・デ・カルメン:Story person, director, designer –
3. 障害がないと、キャラクターアークは直線のままです。障害に出会うと、キャラクターは「弧」に乗り、クライマックスの「最も難関な障害」まで動き続けます。
そのため、障害がなければ、「弧の世界」すら存在しません。
– アートン・コービン:Storyboard Artist –
4. キャラクターが、ただドアを開けるだけで何かを手に入れる映画は臨場感がないんだ。ピクサーにとっても、それは「キャラクター」に値しません。
– ロニー・デ・カルメン:Story person, director, designer –
ピクサーのスタッフは、キャラクターに障害を与えることでキャラクターアークを描きます。キャラクターが、人生で必要なものを手に入れることを強く願っているのです。
【レッスン】キャラクターアークを考えよう
Pixar in a Boxのストーリーテリング講座のレッスンです。
今回のレッスンはキャラクターアークについて考えます。「3つの物語」と「障害」を使いますので、下記ページをご覧ください。
今回は3つのステップです。それではどうぞ!
1. 好きな物語の主人公
あなたが好きな3つの物語の主人公のキャラクターアークについて、以下の2つを考えましょう。
- 主人公の最初のウォンツ(実現したいこと)は何ですか?
- 主人公は最後に何をニーズ(人生で必要なもの)だと学びましたか?
2. 障害の結果
主人公が障害を乗り越えた結果、どのように変化しましたか?
3. あなたのキャラクターの「孤」
あなたのキャラクターは障害を乗り越えた結果、どのように変化しますか?以下の2つから「孤」をイメージしましょう。
- あなたのキャラクターの最初のウォンツ(実現したいこと)は何ですか?
- あなたのキャラクターは最後に何をニーズ(人生で必要なもの)だと学びますか?
今回のレッスンは以上です。
あなたのキャラクターの「孤」が書き出せた人は、コメント欄やTwitterに投稿してみてくださいね。
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【2-5】キャラクターアーク/Character arcのまとめ
「キャラクターアーク」はいかがでしたか?
環境や感情など、キャラクターにはどのような形であれ必ず「変化」が訪れます。
それは大きな変化ではないかもしれませんが、「変化」はストーリーテリングの魅力の1つです。変化によって描く「孤」を意識して、キャラクターアークを考えましょう。
きっと、あなたのキャラクターに観客はドキドキするはずです。
【2-5】キャラクターアーク/Character arcは以上です。
【2-6】ステークス/Stakesへお進みください。
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【2-5】キャラクターアーク/Character arcの動画
【2-5】キャラクターアーク/Character arcの日本語翻訳
【登場人物】
ナレーター(Christian Roman:Story Artist)
オースティン(Austin Madison:Storyboard Artist)
ロニー(Ronnie del Carmen:Story person, director, designer, trouble maker)
アートン(Aphton Corbin:Storyboard Artist)
ルイス(Louise Smythe:Storyboard Artist)
ナレーター:前回の学習のように、キャラクターはたくさんの「障害」に出会います。
そしてこれらの障害によって、キャラクターはウォンツやニーズを満たしにくくなります。キャラクターが障害に出会った際に取る「行動選択」や、結果としてどうキャラクターが変わったかを「キャラクターアーク」と呼びます。
– 「キャラクターアーク」とは何ですか? –
ルイス:私は「キャラクター」、「障害」、「ゴール」の1つ1つを考えていく必要があると思うわ。キャラクターがゴールに到達するためには、障害を乗り越えなければならないの。
障害はそのキャラクターが誰であるかを表し、障害はキャラクターを新しい人物にする。これが「弧」を描くのよ。
ロニー:君が触れてきた映画やストーリーをたくさん勉強してみると、キャラクターは出だしの頃は何もない「スタンダードな状態」、もしくはこれから「その状態にたどり着くレベル」だよね。でも映画の終わりには「成長した状態」になっていることに気付くはず。より良くなるんだ。
キャラクターは「挑戦する」ことや、君の「成長してくれ」と願うプレッシャーがあって、初めてそのレベルに到達するよ。
アートン:障害がないと、キャラクターアークは直線のままになってしまいます。障害が現れると、キャラクターは「弧」に乗ることができて、クライマックスに登場する「最も難関な障害」まで、動き続ける。それで「弧」を描くことができます。
だから障害がなければ、「弧の世界」すら存在しなくなると思います。
オースティン:『Mr.インクレディブル』では、『オムニドロイド』というとても単純で明快な障害が現れる。
シンドロームがボブを島に招きよせて、”巨大なアンドロイドがここにいる。君が挑戦できるかな?さあ戦え!”と言う。ボブは戦い始める。とても接戦だけど、最初のオムニドロイドにはギリギリのところで勝てるんだ。
ボブは、全てを賭けて戦った。
ボブは、勝って嬉しくなった。
でも、僕たち観客は分かっているように、力はほぼ同等なんだ。そしてボブがまた戦いに招かれた時、オムニロイドに敗れ、ボブは捕われてしまう。
既に明らかだが、障害はヒーローよりも偉大で、それが「弧」を描く。
ボブにとって家族こそが一緒に歩んでいく存在であり、「家族がいてこそヒーローになれた」ということを学ぶ必要があった。
そして映画の最後にまたオムニドロイドと出会うんだけど、今回はスーパーヒーローの家族が全員集合するんだ。
そこで僕たちの疑問は、家族の力を合わせて戦っても簡単に倒せる相手かってことだ。
もちろん答えは”イエス”だ。
続編の『インクレディブル・ファミリー』まで、彼らを止めれる者はいなかった。
ルイス:どんな形であれ、ストーリーには「変化」が訪れる。あなたのキャラクターであれ、物語の中であれ、「変化」は本当に感動的なことよ。
そこまで大きな変化ではないかもしれない。だけど、周囲の世界に衝撃を与えるだろうし、「変化」もストーリーの魅力です。
ロニー:例えば『インサイド・ヘッド』の『ヨロコビ』の場合は「ライリーをいつも幸せにしたい」。ヨロコビが出会う障害は、「記憶の崖」に落ちてしまうことだ。このシーンは映画でも代表的な障害だね。
ライリーから「喜び」という感情が消し去られていく。
そして記憶の崖の中で、ヨロコビはライリーがアイスホッケーでチャレンジしたときの、「喜びの記憶」を思い出す。
その時、ライリーは「悲しみ」という感情を経ていたからこそ、「喜び」の感情を得ていたことに気づくんだ。
このことにより、ヨロコビは大切なことが分かります。
今、ライリーに必要なのは「悲しみ」の感情。ここでヨロコビの行動が変わるよ。
ヨロコビはカナシミを脳の司令塔に戻すために、最大限の努力をするんだ。
ヨロコビ自身の目標よりも大事なこと。それはライリーには「悲しみ」や「恐怖」「怒り」「イライラ」など、「全ての感情を併せ持っていた方がずっと幸せである」ことに気づく。
キャラクターがただドアを開けるだけで何かを達成できるような映画を見ても、何も臨場感がないんだ。ピクサーにとってもそれは「キャラクター」に値しません。
何の役にも立たないモノを手に入れても評価しないことは分かっているから、僕たちも、キャラクターが障害を乗り越える活躍をしてほしいと願っているよ。
ナレーター:キャラクターアークは、ストーリーが始まってから終わるまで、キャラクターが請け負う変化を意味するんだね。
第3章では「ストーリーの構成」を勉強するけど、まずは次のレッスンで、君の好きな映画のキャラクターアークを明らかにし、作りたいキャラクターアークのアイデアを出してもらうよ。